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三浦しをん『舟を編む』
三浦 しをん
光文社
¥ 1,620
(2011-09-17)

三浦しをん『舟を編む』読了。

三浦さんの作品には彼女のデビュー当時に出会って、うっわ、久々に面白い作家さん見つけたわーとひとり興奮していたのを覚えている。

その割にはそのデビュー作の『格闘する者に○』と少しあとの『ロマンス小説の七日間』しか読んでなくて、おそらくは十年ぶりの三浦作品。

『格闘〜』や『ロマンス〜』では不思議なリズムの文体にあれよあれよという間に物語に引きずり込まれるその感覚がとても新鮮だったのを覚えているけれど、本作でも独特のリズムは健在で、でもきっと、作品毎にリズムや文体はしっかりカスタマイズしているのだなあということがしっかり見て取れて、彼女の実力のほどがよくわかる作品だった。

ただ、辞書編集部という場所がら選ばれたのであろう少々時代がかった地の文やその独特のリズムというものが、少し災いしているところもあったのかなあという印象。 主人公の馬締(まじめ)の漱石作品に出てくるようなまどろっこしい言い回しを際立たせるなら、その他の地の文はもう少しスピード感があってもよかったのかなあというか。

あ、ここにはわたくし的に馬締がたいへん気に入ったので、彼のキャラをもっと全面に出して欲しかったという個人的な欲も入ってます。

そして、その馬締に代表されるそれぞれのキャラ立ちの良さが本当に気持ち良い。
それぞれのキャラの視点でオムニバス風にリライトしても面白いんじゃないかなあとか。
そりゃ漫画化や映像化もしたくなるというものだ。

さて。
少し枝葉にばかり話が行ってしまったけれど、本作の魅力は何と言っても「言葉」に対する真摯さ、これにつきるんだろう。

辞書の編纂というとても特殊な世界を描いているから、というのはもちろんあるけれど、そこかしこに作者自身の「言葉」への態度が見え隠れする。

「私は十代から板前修業の道に入りましたが、馬締と会ってようやく、言葉の重要性に気づきました。馬締が言うには、記憶とは言葉なのだそうです。香りや味や音をきっかけに、古い記憶が呼び起こされることがありますが、それはすなわち、曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです」(212頁)

これは馬締の奥さんとなる香具也の言葉なのだけれど、板前である彼女はこう続ける。

「おいしい料理を食べたとき、いかに味を言語化して記憶しておけるか。板前にとって大事な能力は、そういうことなのだと、辞書作りに没頭する馬締を見て気づかされました。」(213頁)

そうなんだよなあ。本当に。
客という立場であれば、それを見て感じて、それだけでいい。
でもプロフェッショナルであるためには、それを言語化できる能力というのがどんな職業でも必要なのだ。
なぜなら、仕事とはインプットしたものをアウトプットすることだから。
必ず他者に「伝える」ことが必要なのだと、思う。

だから昨今の人文社会科学系への見直し論などは、見ていて本当に歯がゆく、さみしく思ったりしている。
まるで言葉や言語といったものが蔑ろにされているような気がして。

そして個人的に快哉を叫びたいのは、松本先生に語らせる次のような言葉だ。

「公金が導入されれば、内容に口出しされる可能性もないとは言えないでしょう。また、国家の威信をかけるからこそ、生きた思いを伝えるツールとしてではなく、権威付けと支配の道具として、言葉が位置づけられてしまうおそれもある」
「言葉とは、言葉を扱う辞書とは、個人と権力、内的自由と公的支配の狭間という、常に危うい場所に存在するのですね」(226頁)

言葉の政治性(※)ということに、これほど明確に触れてくれるとは思ってもみなくてびっくりした。
こういうところにもしっかり目が届いているところが、信頼がおけるなあとしみじみ思ってしまったことです。

(※)私が学生のとき影響を受けた著書というのが何冊かあるのだけど、その中の一冊がイ・ヨンスクさんの『国語という思想 近代日本の言語認識』で、これがまためちゃくちゃエキサイティングで、それどころか嫉妬すら感じて(何様)、ああ、こんな論文が書きたいなあと、本気で思っていた。(久々に検索してみたら岩波現代文庫から再販されてるのな。岩波、やぱいい仕事するなあ。)私が専門にしていたのは全然別のテーマなのだけど、すごくすごく参考になった。
本書を読めば「国語」というものが(本質的に)いかに作り上げられるものであるのかがよくわかります。
| どくしょ | 21:21 | comments(1) | trackbacks(1)
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| 藍色 | 2015/10/06 4:24 PM |
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